井上奈々子の『食の豆々知識』  口内調理 - 飲食業界.com | 飲食店のための飲食業界専門の情報サイト
2018年11月22日 公開

井上奈々子の『食の豆々知識』  口内調理

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一時ちょっと涼しくなり、あれ?このまま秋突入か?と思わせながら、やはり、残暑厳しい日が続いています。
しかし、朝夜は涼しい風が吹いたり、せみの声の合間に鈴虫の声が聞こえたりと、秋はもうそこまで。そしてもちろん秋の食材もあちこちで見かけるようになってきました。

先日、入ったある定食屋で、“秋刀魚”の文字が。
冷凍さんまが出回るようになった最近では、1年中さんまを食べられるようになりましたが、やはり、秋になるとまず食べたくなる食材のひとつです。もちろん、秋刀魚塩焼き定食ひとつ、頼みました。

焼きたてのさんまには大根おろしと、これまた秋の楽しみスダチが半分。炊き立ての白いご飯とお味噌汁、小鉢がついてきました。まだ少々脂ののりが少ないかなとも感じますが、そこは走りの楽しみ。さんまを食べて、白いご飯をぱくっ。このハーモニーがたまりません。

そこでふと隣の席の20代サラリーマン風の男性のテーブルをみると、彼もまた秋刀魚塩焼き定食を。

ちなみに、私は魚を食べるのが得意です。
自慢することでもありませんが、マンガに出てきそうなほどきれいに頭と骨だけ残します。
もちろん、さんまは内臓も食べます。

しかし、今、焼き魚をきれいに食べられる人はあまりいないそうです。
やはりその彼も、内臓はもちろん、かなり骨に身が残っている状態でさんまを食べ終えていました。

もったいないなぁ思いながら見ていると、さんまは食べ終わっている状態なのに、更に、小鉢も空なのに、ごはんとお味噌汁には全く手をつけていないのです。

この店は、生卵や納豆、のりや漬物などは、取り放題になっています。
彼は生卵をごはんにかけて食べ、最後にお味噌汁を一気に全部のみ、お店を出て行きました。

これがうわさの“ばっかり食べ”かぁとちょっと唖然としながらもまわりを見てみると、おかずだけを先に食べ、あとで卵などでご飯を食べている人が意外にも多いことに気がつきました。
少し前から、幼稚園や小学校などで、三角食べができない、ばっかり食べをする子が多いと問題になっています。
つまりは、おかず、ご飯、味噌汁、ご飯というように交互に食べず、1品ずつ片付けていく食べ方をします。
更に問題なのは、そういった子は白いご飯が食べられなそうです。すでに、小学生だけではなく、若者、もしかしたら中年層にもそういった食べ方しかできない人が増えているのかもしれません。もしそうだとしたら、その子供たちはもちろん、同じ食べ方になるのは当然です。

日本は、“口内調理”をする食文化を持っています。中華や洋食は一品ずつ食べ終えていくのに対し、和食ではいくつかの料理から、同時にあるいは交互に箸で口に運び、口の中で味をミックスさせて楽しむという“口内調理”を行います。

外国人に丼を初めて出すと、上のおかずだけを先に食べてしまうとか。

この例えは、本当かどうかはわかりませんが、外国には“口内調理”という食文化がないのは確かです。
しかし、“口内調理”ができない日本人が増えているのは、食事のしつけ、マナーができていないからということだけはありません。
昔は、味の濃いおかずが多かったのに対し、最近では薄味傾向にあり、“このおかずが1口あればご飯1膳軽くいける”という味付けのおかずが減ってきたという、食事の変化にも理由はあります。
また、すぐにつくれるということで、料理雑誌などの特集では丼料理が人気だそうですが、そういった丼料理が家の食事で増えたということも三角食べをしなくなる理由のひとつなのかもしれません。

三角食べや口内調理などの食文化、食のマナーは残していかなくてはとも思いますが、食の変化もしかたのないことです。上記の定食屋でのご飯の友の取り放題は、今の時代、うまい戦略なのかもしれません。でも、秋刀魚の塩焼きには、白いご飯がかかせない、と私は思うのですが…。

今回は、食材の知識ではありませんでしたが、気になったことがあったので、端休め。
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【記事】FBA 井上奈々子

井上奈々子(いのうえななこ)
フードコーディネーター・フードプランナー

立教大学社会学部卒業後、フードコーディネータースクールにて、食の基礎を学びながら、新規出店の立ち上げやオペレーション等幅広い実践経験を積む。その後、飲食店専門コンサルタント会社、株式会社フードサービスコンサルタントグループに入社。多岐にわたった業態のメニュープランニングに携わり、チーフコーディネーターとして数々の業態開発を行ってきた。

独立後、飲食店舗のメニュープランニングを中心にブランドメーカーの商品開発、講演会、飲食店業界誌の執筆を行う。また、フードコンサルタント・コーディネーター養成学校の運営管理・講師、セミナー企画なども行っている。一方、エコール・キュリネール国立辻日本料理専門カレッジにて日本料理の技術を習得。うつりゆく情報社会の中、ゆるぎない食文化の基礎を日々研鑚し続ける。